2019年11月1日
自然科学研究機構分子科学研究所
富山大学
広島大学
九州シンクロトロン光研究センター
・精密に制御されたレーザーでのみ可能と思われていた原子の量子状態の制御を放射光で行うことに世界で初めて成功した。
・レーザーでは対象とすることができないような高いエネルギー状態や短時間で起こる反応についても、放射光を用いることで量子状態制御ができる可能性を示した。
・物質との相互作用の強い極端紫外線や物質に対する高い透過力を持つX線の波長域の放射光を用いた量子状態制御は、化学反応制御の新しい手段となり、新たな機能性材料の創生に活用できるかもしれない。
富山大学の彦坂泰正教授、九州シンクロトロン光研究センターの金安達夫副主任研究員(分子科学研究所客員准教授)、広島大学の加藤政博教授(分子科学研究所特任教授)らの共同研究チームは、分子科学研究所の放射光施設UVSORを用いて、最先端のレーザー技術でのみ可能と考えられてきた原子の量子状態制御を放射光注)で実現することに世界で初めて成功しました。レーザー光よりも短波長・高時間分解能化が容易であり、極端紫外線やX線を用いたより高度な量子状態制御への道をひらく研究成果です。
光による量子状態制御とは、光の波としての性質(コヒーレンス注))を物質に転写することで、物質の量子状態を波の干渉を用いて制御する技術です。量子状態制御は、高い選択性をもった化学反応の制御法として提唱され、今日では量子コンピュータなどの量子情報分野の基礎技術としても活発に研究されています。共同研究チームが今回見出した放射光による量子状態制御の手法を用いると、現在のレーザーでは対象とすることができないような高いエネルギー状態や極めて短時間で起こる反応過程についても制御することが可能になります。物質と強く相互作用する極端紫外線注)や物質に対する高い透過力を持つX線の波長域の放射光を用いた量子状態制御は、化学反応制御や機能性材料創生への応用が期待されます。
この研究成果は、「Nature Communications」誌のオンライン版に2019年11月1日に掲載されます。