幕末期の三重津海軍所(世界遺産、佐賀市)跡から出土した磁器の産地推定に成功しました

■論文情報■

タイトル:Estimation of places of production of porcelains of unknown origins excavated at the Mietsu Naval Facility site based on differences in the solubility of trace metals during the elutriation process
著者:Masaaki Tabata, Naoto Yagi, Jun Nishimoto, Abdul Ghaffar
雑誌:Journal of Archaeological Science: Reports
公開年月日: 2021年2月1日

DOI:https://doi.org/10.1016/j.jasrep.2021.102823

 

■課題情報■

課題番号:1807064R
実施課題名:蛍光X線分析法による出土磁器の産地推定法の考古学への展開―三重津海軍所出土磁器―
BL番号:07

課題番号:1912117P
実施課題名:三重津海軍所跡出土磁器の蛍光X線分析法による産地推定―灘越蝶紋絵皿―
BL番号:07

 

■概要■

 幕末期に佐賀藩主鍋島直正は三重津海軍所(佐賀市川副町、諸富町、世界遺産登録(2015年))を蒸気船の修理・建造と海軍教育のために建設した。木枠構造のドライドックはじめ、蒸気船の修理に使った鉄や銅製品ならびそれを溶解したルツボ、また300個以上の碗や皿が出土した。碗には「御舩方」、「役」、「海」の文字が書かれ、皿には、荒波の上を飛ぶ蝶の絵柄、「灘越蝶紋」が描かれていた(図1)。それらは三重津海軍所の特注品であったために類似の文字や絵柄を有する磁器の出土や文献記録もなく、磁器の生産地は不明であった。古陶磁器の専門家はおそらく、志田(佐賀県嬉野市塩田町)か有田(佐賀県西松浦郡有田町)だろうと推定した。

 我々は、磁器の素材(胎土)成分は原料(陶石)よりも製造法(水簸(すいひ)、粉砕した陶石を水洗いして長期間水槽に保存し、コロイド状の泥漿を沈降させて粘土を作る工程))に依存するだろうと考え、磁器の胎土成分を九州シンクロトロン光施設で蛍光分析を行った。特に、今まで関心が薄かった微量成分(ルビジウム(Rb)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)の含有割合に着目した。水簸では、水に溶けやすい元素は溶出し、溶けにくい元素は泥漿と一緒に残る。水に一番溶け難いNbを基準に、溶け難い元素Zr,及び一番溶けやすい元素Rbとの濃度比をそれぞれの出土磁器について比較すると、図2のように3つグループに分かれた。生産地が明らかな磁器についても同様の結果が得られた。その結果より、三重津海軍所跡から出土した磁器は、有田と有田近郊の波佐見(長崎県東彼杵郡波佐見町)、志田で製造されていたことが明らかになった。しかも、碗は文字の違いで、灘越蝶紋絵皿は絵柄の違いで生産地が違うことが明らかになった。「御舩方」銘碗は波佐見で、「役」銘の碗は志田で、「海」銘の碗は有田で製造された。皿は、絵柄で生産地が異なった。荒れた海を飛ぶ蝶(図1、A、A’)は志田で、静かな海の上を飛ぶ蝶(図1、B)は有田で、さらに、さざ波の上を飛ぶ蝶(図1、C)は有田で製造された。水簸工程での元素移動の違いから磁器の生産地を推定したのは本研究が初めてである。さらに互いの生産地は15~30 kmしか離れていない。本研究の手法を他の磁器の産地推定へと発展させる予定である。

 

図1.三重津海軍所跡からの出土磁器の一例(上記DOI論文から転載)

 

図2.出土磁器のRb/Nb vs. Zr/Nbプロット(上記DOI論文から転載)

       
   
     
 

 

■問い合わせ■

佐賀大学
名誉教授、客員研究員 田端正明
0952-28-8560,tabatam@cc.saga-u.ac.jp