コラム

 

筆者はいわゆる団塊の世代に属しますが、団塊の世代はその際立った人口構成比から折に触れてメディアに取り上げられてきました。少し年齢範囲が違いますがアメリカではこの世代がベビーブーマーと呼ばれて同じような位置づけのようです。我々の後も若者世代に様々な名称がつけられましたが、団塊の世代ほど定着していないようです。さて、放射光※)の世界で世代といえばよく知られているように、高エネルギー物理学用のリングに寄生した時代、専用蓄積リング偏向電磁石光源からの放射光利用の時代、高輝度リングアンジュレータからの放射光利用の時代をそれぞれ第1、2、3世代と呼んでいますが、ハードウェア(加速器)性能の差とともに利用研究の差も反映しているのでこちらの世代論は異論のないところでしょう。第4世代放射光が何であるかはしばらく前に議論がありましたが、大方のところライナックベースのXFELやERLがそれに相当していると考えられているようです。しかしその先の加速器についてのイメージは私の情報不足のためかあまりはっきりしません。

例えば第2世代リングの建設・稼働が始まったころには第3世代リングの、第3世代大型放射光施設の建設が始まったころには第4世代の実現を目指したワークショップなどが欧米で開催されていた記憶がありますが、今はどのような状況でしょうか。例えばこれまでのように上位世代が下位世代を包含するという概念は既に成り立ちそうにもありません。どうやらハードウェアだけで放射光科学の発展を分類する方法が実情に合わなくなってきたように思います。他の科学技術の分野でも技術の発展を世代という呼び方で区別することがあるようですが、世代が進むと分類自体が意味を失うことが多く、放射光も似たような状況にあると思います。放射光の先端的な分野での手法開発には目覚ましいものがありますが、一方で新第3世代光源の建設・稼働が世界的に盛んです。東日本にも新リング建設の計画があるのはご存知のとおりです。さらに特徴ある小型リングの整備も国内外ともに進んでいますので、当面は各施設が個性を発揮してスペクトルの広い放射光源群が整備されていくように思われます。ついでに個人的な希望を述べると、少し遠い将来にでも超小型加速器が実現することを期待しています。

 ハードウェアから放射光利用研究者に目を転じるとこちらにも変化が生まれています。初期には放射光は特別な研究者集団が使いこなすものでした。その後波長領域がX線まで広がると、ユーザも拡大しましたがユーザはまだそれぞれの研究分野で放射光を専門とする研究者であったと思います。筆者もフォトンファクトリーが稼働を始めたころユーザとして利用に参加し、その後施設に移り、放射光による分析利用を中心とした研究開発の仕事に定年まで携わることになりましたので、放射光利用の専門家に分類されます。放射光の世界ではその後も右肩上がりのユーザの拡大が続き、高度に専門化した放射光専門家以外に放射光をツールとして利用する研究者群の共存という良く知られた質的な変化が生じています。後者の背景としては放射光利用のハード・ソフトが整備され実験へのアクセスが容易になるとともに、各手法の経験が十分蓄積され、それぞれの手法から得られる情報の科学的内容とその精度、あるいは限界などが明確になってきたことなどがあります。この現象は分野によって大きく異なりますが、体感としては放射光利用の初期技術が一通り出揃った1990年代の中ごろから徐々に始まり第3世代リングが各地で稼働し始めた2000年以降に本格化したようです。私の携わっていた分析分野でも1990年代末ごろまでに、主要な手法の初期開発が一巡した記憶があります。また放射光が産業界から期待を寄せられるようになったのは経済情勢もありますが、放射光施設が実力を蓄え実績が一定程度社会的に認知された証しでしょう。一方で現実問題として放射光全体としての(ビームタイム)x(ステーション数)や人的資源が十分でないという状況のなかで、異分野の、またスタンスの異なる研究者・技術者が放射光利用に競争しつつ協調して取り組む過程が現在進行中のように思えます。


放射光が本格的に使われるようになった第2世代リングの稼働から30〜40年経っていますので、文字通り世代をひとつ越えて放射光科学技術2.0(?)に入ったのではと管見する次第です。

 

※)放射光:シンクロトロン放射光(Synchrotron Radiation、以下、放射光と略記)

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