光跡

 前回は、光源装置とくに加速器の建設について述べましたが、今回は実際に利用研究に使われる装置の開発/建設について述べます。九州シンクロトロン光研究センター(SAGA−LS)
の大枠は基本計画で決まっていますので、今回の主題は「どうしたら優れた成果が挙げられるか」に向けた努力の跡をたどることです。

ビームラインの役割
シンクロトロン光(放射光)は細くて平行な光線(ビーム)であり、波長が赤外領域からX線までの広い範囲で連続的に分布する極めて明るい光です。数10億分の1秒だけ光るパルス光であり、偏光という特性もあって物質の磁気的性質に敏感です。こうような優れた特長をもつので、放射光はナノテクノロジー時代の物質研究には不可欠のツールになっています。
光が物質にあたると透過、散乱・吸収され、また二次的に出る光や光電子を放出します。このような現象は波長によって大きく異なりますので、波長を一定にした放射光を物質に照射し、実験手法(散乱光や二次光/光電子の計測、吸収量の変化あるいは透過像の測定など)を選んで計測すれば、物質の構造(原子配列)や性質を明らかにすることができます。ビームラインはこのような測定を行う装置全体のことですが、超高真空下で分光器(波長選別)、集光ミラーの光学系と精密計測装置で構成されています。
どのような実験を行うかはビームラインで決まりますので、その選定はSAGA-LSにとって最重要な課題でした。施設で優れた成果を挙げるためには、特徴的な高性能実験装置を備えなければなりません。SAGA-LSのビームラインには県が公費で建設して広く一般利用者の利用に供する県有ビームラインと、特定の大学や企業が自分たちの研究開発のために建設する専用ビームラインがありますが、本稿では主に県有ビームラインについて述べることにしました。

県有ビームラインの選定
すでに述べたように、基本計画が想定した利用分野は1980年代のものであり、改めて検討する必要がありました。そこで九州大学、佐賀大学など近隣大学や研究機関、企業の研究者が集った「利用研究フォーラム(平成12年発足、平成16年利用促進協議会に改組)」を設置し、SAGA-LSで進めるべき研究として5分野(ナノテクノロジー、新素材、環境・分析、生命科学、量子技術等)に14研究会を立ち上げて検討を始めました。
県有ビームラインは第一期3本を建設することになりました。ビームライン提案を一般から公募したところ、公募締め切り(平成14年7月1日)までに
〆猯漸湛プロセス開発、
▲泪ぅロXAFS、
9睚解能光電子分光、
て陦慇分光、
シ峺X線分析・XAFS、
Γ慇分光・反射、
Ч渋な性・位相イメージング、
┸振紫外照射、
電子構造解析、
多目的材料解析
の10ビームラインが提案されました。選定委員会では「研究テーマの先端性と成果の期待度」「産学共同研究の実現性と産業への貢献度」「利用者見込み」などの点を検討評価して上位5提案(上記のうち ↓、А↓、)を第一期県有ビームライン候補に選びました。

その後施設者側が中心になって、幅広いエネルギー範囲で実験・分析が汎用的に行える、産業利用誘致の機会を多くできる、できるだけ多様な実験・分析が行えるようにする、との方針で最終案を作り、材料加工(BL09A、小川佐大教授、白色光照射)/プロセス開発(BL09B、本岡九州大教授、極紫外光照射)、軟X線利用(BL12 、鎌田佐大教授、光電子分光、XAFS)、X線利用(BL15 、近浦九州工大教授、XAFS、回折散乱、蛍光分析、イメージング)の県有ビームライン3本を建設することが決まりました。なお、括弧内はビームライン番号、代表者、実験手法で、ABは分岐を示しています。

県有ビームラインの建設
県有ビームラインは、県が公費で建設して広く一般利用者の利用に供する研究施設ですから、施設職員が責任を持って建設・運営する必要があります。ところが設計開始時にはビームライン担当者は一人のみで、3ビームラインの設計建設に責任を持つことは不可能でしたので、県は各ビームラインに代表者を中心にした設計チーム(後に整備チーム)をつくり、設計(建設)を委託しました。こうして平成15年度に設計が終り、平成16年度から建設が開始されましたが、その後、施設職員も増加して建設・調整・運転の責任を果たすようになりました。なお、県では建設に参加した労に報いるため、完成後2年間は第一期県有ビームライン整備チーム参加者に対して、当該ビームラインを優先的に利用することを認めました。

建設は平成16年から始まり、BL09AとBL15では放射線障害防止法に基づく施設検査合格(平成17年12月15日)とともに利用実験が始まりました。しかし、BL12は建設中に受注業者の不手際から真空不良が発生し、その復旧作業のために多くの労力と時間を消費してしまって、調整運転は平成18年度前半にずれ込みました。職員による利用実験で性能を確認した後、平成19年初めから外部利用実験が行われています。

県有ビームラインの紹介
BL09は偏向磁石からの放射光を上流側に設置したミラーで2本に分岐しており、1本(BL09A)は「照射・結晶構造ビームライン」と呼ばれ、実験ステーションはクリーンルーム中にあり汎用照射チャンバーが設置されています。白色光を照射する微細加工装置や半導体結晶化技術の研究を行う白色トポグラフ試験装置が使われています。
他の1本(BL09B)は瀬谷・波岡型分光器で分光した極紫外光を照射する半導体などの材料加工(超薄膜形成や微細構造エッチングなど)を行うビームラインで、佐大、九大、佐賀県による3者連携融合事業の成膜装置があります。

BL12は「表面・界面ビームライン」と呼ばれ、波長の比較的長いX線(軟X線)を用いて物質の表面や薄膜を研究する光電子分光装置や軟X線吸収分光装置が設置されていています。これらはナノテクノロジー研究の重要な実験装置で、多くの大学・産業界のユーザーが利用して成果を挙げています。最近では軟X線吸収分光実験のニーズが高く,最も利用者の多いビームラインです。

BL15は「物質科学ビームライン」と呼ばれ、波長の短いX線を用いてXAFS、蛍光分析、粉末X線回折、表面X線回折、X線小角散乱、イメージングなどの実験装置が設置されています。物質中の元素分布や、結晶、粉末、固体表面などの原子配列、特定原子の周囲にある原子の種類と位置などX線を利用して様々な実験が行えるようになっていて、当初,3本の中では最も利用者が多いビームラインでした。後で述べますが,新たにBL11が建設され役割分担が図れるようになりました。

その後、外部ユーザーによる利用が着実に増え、平成21年には3本のビームラインを使った外部利用実験の総時間数が2500時間を超えました。22年度にはさらに増えて、3600時間になると予想されています。なお、利用時間数の割合では企業が50%、大学26%、県公設試(佐賀県工業技術センターなど)24%になっていて、他施設に比べて企業の利用が突出しているのが特徴です。

第二期県有ビームライン整備計画
平成19年度には利用希望時間数が運転予定時間数を超える事態になり、ビームラインの増設が緊急の課題になってきました。この状況を見越して、県は第二期県有ビームライン3本の建設を認めるとともに実験棟の増築を行い、平成20年7月に竣工しました。一方、第二期県有ビームラインは、平成18年から設計・建設を開始しましたが、その内訳は磁場強度4テスラの超伝導ウィグラービームラインBL07と、可変偏光アンジュレータビームラインBL10、偏向磁石ビームラインBL11です。 このうちBL11は、BL15の混雑を解消するため最も早く完成していて、XAFS測定装置と小角散乱装置が設置されており「局所構造ビームライン」と呼ばれています。BL10は光電子分光装置と光電子顕微鏡が設置されている「ナノ物性ビームライン」で、パイロットユースを実施しています。BL07は「バイオ・イメージングビームライン」で、タンパク質構造解析装置と位相イメージング装置を設置する計画です。現在建設中ですが、平成22年度後半から供用開始を予定しています。これら3本のビームラインは施設側が中心になって計画し、平成18年6月の諮問委員会で承認されるとすぐに設計・建設を開始しました。

九州シンクロトロン光研究センターは建設開始からちょうど10年目になりますが、県有ビームライン6本、他機関ビームライン3本(佐賀大学、 螢縫灰鵝九州大学の3ビームライン)が設置されていて利用研究が進められています。光源運転は月曜日から金曜日まで毎日8時にスウィッチオン21時にスウィッチオフで、途中15時に再蓄積を行いますので、ユーザーへのビーム提供は10時から21時までの実質10時間です。光源運転時間は年間1500時間を予定していますが、これまでは建物増設やビームライン建設のため停止期間があり、必ずしも達成されていませんでした。今後は出来る限りこのスケジュールで運営したいと思っています。



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