光跡


佐賀県立九州シンクロトロン光研究センター(略称:SAGA-LS)は平成18年2月17日に開所式を行い、本格的な共用を開始しました。その後今日まで施設の整備も進み、大学、研究機関、産業界の研究者技術者による本格的な利用実験が行われています。
当研究センターは地方自治体が建設し運営している研究施設ですが、広く産官学の人々が利用する「全国的共同利用」施設でもあります。このような施設はこれまで国が整備し運営してきました。現在わが国には8箇所に放射光施設が活動していますが、本格的共同利用施設として運営されている地方自治体の施設は当研究センターのみです。そのため、施設の運営や研究成果だけでなく、目指す方向や社会との関わりなども含めた当研究センターの在りようを、専門家でない人々に知ってもらう必要があります。幸い、マガジンの発行も軌道に乗ってきましたので、本号から「光跡」として、施設の自己紹介を掲載することにしました。執筆はできるだけ多くのスタッフに依頼するつもりですが、当面は所長が担当します。

第一回はなぜこのような施設が必要なのか、なぜ佐賀県が創ったのかについて紹介します。いわばSAGA-LS誕生の経緯と期待された役割の記録です。
まず初めに「なぜこのような施設が必要なのか」ですが、具体的な例はこれからも度々出てきますので、ここでは一般論として先端医療システムと対比して述べてみます。一昔前には町近所の医院や診療所では医者は体温を測り聴診器を体に当てて診断し」薬をくれました。ところが最近は、血液検査は採血して検査に出すと数日で結果が得られる、必要ならば患者がMRIやX線CT、PETなど専門の検査施設に行って検査を受けるように依頼してくれる、さらに高度な検査が必要な診察は大病院を紹介してくれます。費用のことを除いて、必要な最先端の検査結果を総合して診断してもらえる仕組みになっています。
同様のことが先端産業でも行なわれています。研究開発の現場では、最先端の計測機器を駆使した新物質の構造や機能の解明あるいは新しい特性を持つ物質の創製が行われていますが、その結果を総合して初めて新材料、新デバイスや触媒など新機能性物質が創製され、実用化されるケースが増えています。シンクロトロン光はこのような研究開発に欠かせない、あるいは研究開発を加速してくれる「道具」ですが、一企業が所有するには巨大すぎるし、必要なときにすぐ使えればよく、また、使いこなすのに多くの専門家や経費が必要といった施設です。国が公共的な施設として建設・運営し、大学や先端産業などの研究開発に利用できるようにしているわけです。なお、医療システムと大きく異なる点は、大学や企業の研究開発では、成功するまでは内容を秘密にした物質試料が計測の対象であり、新発見のヒントを見逃さないように研究者自身(共同研究者を含む)が自分の目で確かめながら実験することです。
今日ではシンクロトロン光研究施設は、わが国が国際的研究開発競争で先頭に立つために必須の基幹的研究施設に挙げられています。ではなぜ佐賀県は自前の施設SAGA‐LSを持つことを決めたのでしょうか。その答えを得るために歴史を振り返って見ます。

 1990年代後半、バブル崩壊後のわが国経済を立て直すため、国は科学技術基本法を制定して、当時急速に発展していたナノテクノロジーや生命科学の研究開発で世界をリードするような施策を策定しました。平成7年11月に公布・施行された科学技術基本法は「国は科学技術の振興に関する総合的な施策の策定と実施の責務を負い、地方公共団体は国の施策に準じた施策と地域の特性を生かした自立的な施策を策定し実施する責務を負う」としています。
これを受けて佐賀県は平成8年2月に佐賀県科学技術会議を発足させ、その審議を経て翌9年3月に「佐賀県科学技術ビジョン」を策定しました。他の九州各県より1年半から3年も早い決定で、当時の佐賀県の意気込みが感じられます。その中に「小型シンクロトロン光研究施設整備の検討」が提言されていて、そのために設置された検討委員会は、平成11年5月に「シンクロトロン光応用研究施設整備基本計画」を答申しました。国の科学技術基本計画施行から僅か3年半後のことです。

1990年代前半に、わが国では産業利用を目的にした小型放射光施設が計画されていました。これからは産業利用が活発になるとの予想から複数の企業が自社用に建設しており、千葉県では「ナノハナ計画」が脚光を浴びていました。当時は学会の大先生に楽観的な見方が多かったためです。佐賀県の計画は地域産業の育成と先端企業の誘致、人材育成などを目標にしていて、このような流れに乗っていたとも言えますが、この頃の計画で現在活躍しているのはSAGA-LSだけです。

この頃私のところに佐賀県科学技術会議メンバーであった伊藤栄彦佐賀大学教授が訪れて、佐賀県計画への協力を要請しました。伊藤さんとは古くから親交があり、佐賀県シンクロトロン光応用研究施設整備基本計画について詳しい説明を受けましたが、運営・利用計画にはかなり「違和感」を感じたことを記憶しています。

私たちが提案した「大型放射光施設計画(後のSPring-8)」を予算化するにあたり、国は委員会を作り、さまざまな問題を検討しました。産業利用の可能性も検討されましたが、当時最も期待されていた半導体リソグラフィについて、聞き取り調査に訪問した大企業研究所の幹部には否定的な見方が多くて困惑したことを覚えています。しかしこの見方が的中して、SPring-8が稼動し
始めた頃にはリソグラフィへの期待はなくなり、産業応用の方向は暗中模索の状態でした。これが基本計画に対する違和感の原因です。

こうして建設が決まったSAGA-LS は、スタッフの努力に加えて、県のバックアップ、多くの大学・研究機関の指導と協力を得ることができて、ほぼ予定通りに完成しました。


次号には完成までの歴史を概観します。 >>つづく



TOP
特集!!成果報告会ダイジェスト

公益財団法人佐賀県地域産業支援センター 九州シンクロトロン光研究センター
〒841-0005 佐賀県鳥栖市弥生が丘8丁目7番地 TEL:0942-83-5017 FAX:0942-83-5196

(C)SAGA-LS.All Rights Reserved.